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【日記】匿名であることの耐えがたさ

「がんだるふ事件」――後の世にはこう呼ばれるようになるのだろうか。さくらちゃん募金の不透明さを追求する、いわゆる「死ぬ死ぬ詐欺」祭りを毎日新聞が取り上げたところ、コメントを提供したHN「がんだるふ」が、掲載された内容に誤謬があるとして、毎日新聞記者の実名をmixi上で公開した、というのが事のあらましである。
この件で興味深いのは、がんだるふ氏が毎日新聞のインタビューで答えている匿名擁護の論法と、その行動のズレである。

 --匿名での攻撃はアンフェアでは。

 ◆名前は記号。本質は書いた内容にある。

書いてある内容が本質を突いていれば、発言した者が匿名であろうと顕名であろうと関係ない。これは匿名性を擁護する際によく使われるロジックであり、僕自身も同意するのにやぶさかではない。
問題はこの後。がんだるふ氏は、毎日新聞が署名記事を謳い文句にしなから匿名で特集記事を書いていることをダブルスタンダートであると批判し、毎日新聞の記者2名の本名と連絡先を公開する。しかし、言うまでもないことだが、この行為は上記の匿名擁護論とは真っ向からぶつかる。「名前は記号」に過ぎず、「本質は書いた内容にある」というのが彼のポリシーであるならば、なぜ、記者の個人情報をネットに晒すという行動に出たのか。「本質は書いた内容にある」のであれば、記事の内容だけを問題にすればいいはずだ。

この種の欺瞞は、現在の2ちゃんねるにもはびこっている。mixi登場以降の2ちゃんねるの「祭り」は、「個人情報あばき」に主眼が置かれているのは周知の事実である。つまり、ある言説を批判する場合に、そのメタレベルに遡及することで言説の前提を崩す。相手が言っている内容に逐一反論するのではなく、相手が「~な人間である」ことを暴き立てることで、その発言自体を無力化してしまう手法である。
ネット以前の名前が明らかなメディアでは、このメタへの遡上が前提としてあった。「何を言ったか」と同じくらい、時にはそれ以上に「誰が言ったか」が重視される世界。しかし、インターネットで匿名メディアが登場してからは、このパワーバランスは逆転し、「誰が言ったか」よりも「何を言ったか」が重視されるようになった。そのこと自体には何の異論もない、むしろ歓迎すべき傾向であるように思われる。しかしそうである以上、現在の2ちゃんねるは欺瞞に満ちているように見えるのも確かだ。なぜなら、彼らは相手を論破するために、旧来の「誰が言ったか」を重視する論理を相変わらず都合よく使っているからである。

「名前は記号。本質は書いた内容にある」。この論法を本当にラディカルに信奉するならば、あの毎日新聞の記事を書いた人間が誰であろうと関係がないはずだ。論破すべきなのは、あの記事内の事実誤認や偏向であって、記者2人の名前や連絡先、またmixi内での行動や人間関係など、「誰が言ったか」に属するメタレベルの情報をあげつらうのは筋違いのはずだ。
僕自身、かなり原理的な匿名擁護論者である。つまり、発言者が人殺しであろうと大学教授であろうとネット右翼であろうとプロ市民であろうと同じように文面のみを評価し、発言者の内実は評価に加えない「テキスト至上主義者」であるということだ。これは旧来の考え方からするとかなり極端な態度であるが、しかし、そのような態度でないと、誰が書き込んでいるか分からない匿名掲示板の情報はほとんど無価値になってしまう。すべては書き込みの中に現れると信じ、書き込みからすべてを読み取ろうとする。これが、僕が2ちゃんねるから学んだ匿名世界の流儀であり、テキストの中に現れる以外の情報、つまり発言者のプロフィールに遡って発言の価値を検証する行為は邪道――とまでは言わないにしても、個人的なポリシーには反するものだ。

匿名の発言でしのぎを削ることに意味を見出しているはずの2ちゃんねらーが、なぜ嬉々として発言者の個人情報を暴くのか。これは彼らの大半が匿名の可能性――発言者が誰であろうとも平等なスタンスで議論できるというメリット、それがもたらす新しいパラダイムに耐えるだけの素養がないことを示している。
匿名掲示板2ちゃんねるは、「何を言ったか」が重視される言論空間の可能性を切り開いた。しかし、そこの集った人々は相変わらず、「誰が言ったか」にこだわる泥沼のような足の引っ張り合いを続けている。

果たして、匿名コミュニティが人々の言葉に対する意識を変革する日は来るのだろうか?

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コメント

突然、おじゃまします。
書き込みをお許しください。

http://ex18.2ch.net/test/read.cgi/net/1168326895/l50x

2ちゃんねるで自浄作用が働いているようです。

投稿: ガンダルフ | 2007.01.17 05:39 午後

メタ情報を抽出することで定型のストーリーを描き出し
彼らのレッテルに当てはまることを確認して安心する、
2chではおなじみのパターンですね。

投稿: 管理人 | 2007.01.24 05:17 午前

半年以上も前の情報に食いついて申しわけありません。
他の所でも読みましたけど、要は「自分”だけ”は絶対安全神聖不可侵なところに置いておいて、他人(叩きやすい相手)を徹底的に罵倒して勝った気分に浸りたい」ということのようです。
自分にもそういう心はありますが、まあ、みっともないですね。見られていない(と思い込んでいる)から良いのでしょうが。
内部告発などでそういう手段が必要なこともありますが、「彼等」のやっていることは多くは”罵倒・レッテル貼り”であり前向きではない、それで勝ち誇った気になっている。
「勝った」と思っているなら、表彰してやるから素性を晒せ、と私は思うのですがね

投稿: コメン徒 | 2007.07.31 10:59 午前

VIPが支配しているゲームサイト→http://utpa.jp/?guid=on&cv=133721

投稿: | 2010.11.04 05:09 午後

6年も前から今と同じことについて論じられているとは思いもせずビックリし、
興味深く読ませてもらいました。

今日本のネット社会は大きく変容しています
ブログの氾濫やface bookのような実生活を赤裸々に語るソーシャルサイト
そのような現実世界をネット上に持ち込む行為が
この特定ゲームをさらに加速させているような気がしてなりません。
ネットはよくも悪くも大衆化してしまったということでしょう。

>「名前は記号。本質は書いた内容にある」
少なくとも目に届く範囲内でその内容に一貫性は問われるべきだと思いますが、
これが匿名サイトである2chの基本的な部分であることは間違い無いと思います。

個人の特定
感情的な言葉を使ってしまえば「無粋」この一言でしょうか。

投稿: | 2012.08.30 05:54 午後

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