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【日記】ケータイと恋愛

IT社会においては、コミュニケーションの欲望だけが先走り、話のネタについては不足しがちな傾向にある。
手紙や電話の時代であれば、会話の機会は不足しても話のネタに事欠かくことはなかった。たとえば一ヶ月ごとに交わす文通には一ヶ月分の話題を書くことができる。3日に一度の長電話には3日分の話題がある。「恋は障害があるほど燃え上がる」とよく言われるように、コミュニケーションの機会が少ないほど交流は濃密なものとなる。現在では死滅した文化に「ラブレター」というものがあるが、よくステレオタイプに挙げられる仰々しくもブンガク的な文面、「僕は貴女のことを海よりも深く、山よりも高く愛しうんぬん」といった類のものは、会話の機会の少なさゆえに、個人の中で熟成し発酵した「想い」が発露した、古き良き時代のコミュニケーションと言えるだろう。

しかし、ケータイが登場し、さらに24時間いつでも送受信可能なメール機能が付いたことで、コミュニケーションはきわめて希薄なものとなった。その気になればいつでも連絡できるという利便性が、文章表現の熟成と発酵の機会を奪ったのである。今の僕たちには「話す機会」は無限にあるが、「話したいこと」はとても少ない。いつでもメールできるからこそ、「おはよう」や「おやすみ」「いま何してる?」「お疲れ」といった他愛もない言葉ばかりが交わされ、そこで重視されるのは、文章の中身よりも送信頻度と返信までの所要時間だ。一日に何度もメールが来る、メールを送るとすぐにレスポンスがある。これらが関心の高さ、ひいては愛情の深さを測るバロメーターとなり、内容は二の次。今や、たった10秒で書けるようなお手軽な文章が来たり来なかったりで、人々は一喜一憂しているのである。

このように、メール恋愛におけるコミュニケーションの特徴は「頻繁な送信」「迅速な返信」「希薄なメッセージ性」である。うち、「頻繁な送信」と「迅速な返信」に関しては、性格と習慣に拠るところが大きい。要するに前者は「マメな男」であり、後者は「律儀な男」である。いつの時代でも、女性に対してマメで律儀な男はモテるものだ(みんなもマメで律儀な男を目指そう!)。
問題は3つ目。コミュニケーション頻度の多さゆえの、メッセージ性の低さだ。このメールの「質」よりも「回数」が重視される状況では、内面的な人間ほどメールを使いこなせない傾向にある。手紙の時代には、内面を文章に反映させる能力、つまり「文才」ある人間は恋愛においても有利であったはずだ。しかし、ケータイ時代においては、内面など「足かせ」にしかならない。深い愛情ゆえに、ありきたりの文句ではなく自分の言葉を相手に伝えようとする、その発想こそが実は大きな罠。推敲された分だけ送信頻度は減り、返信は遅くなり、現代の恋愛の基準においては失格の判定を下されることになる。この不毛極まるIT時代においてブンガク青年が恋愛競争を勝ち抜こうとするならば、最愛の人への繊細な「想い」に反し、テキトーなメールをバンバン送り続けなければならないのである(なんたる不条理!)

かくして、ケータイが中心の恋愛社会においては、DQNが圧倒的に幅を利かせることになる。無頼派からニューアカに至るまで、モテ男の一類型であったはずの文系インテリ青年は、21世紀において完全にその座から滑り落ちた。現代の若きウェルテルたちは、メールの量産競争に敗北しその存在を忘れられてゆく。報われない少数派である彼らはやがてブログやmixiに行き着き、そこで細々とブンガク的な内面を吐露するだろう。
逆に、ブログやPCメールなど長文表現が確立されているインターネットの世界から見れば、ケータイのメール文化は「深く考えずに打ったもん勝ち」であり、取るに足らないものとみなすこともできる。所詮ケータイは不完全なパソコンであり、その機能はインターネットの簡易版に過ぎない、と軽視するパソコンユーザーも少なくないはずだ。
しかし、現代日本において、ケータイの普及率はあまりに圧倒的だ。ブログやmixiで長々と内面を綴ったところで、肝心のあの娘は読んじゃくれない。職場で、路上で、電車の中で、ケータイとにらめっこしている御婦人方を見よ。いかに希薄なコミュニケーションがブンガク青年たちを窒息させ、人々の内面をJ-POPの歌詞のごとき紋切り型に押し込めていようとも、世の中の女性の大半はケータイのメールに夢中なのである。

ケータイとは、「人々の内面的言語を空疎化する装置」であり、「メディアによる一億総白痴化の最終兵器」であった!(笑) なんともゆゆしき事態ではあるが、しかし、そんな御託をひとしきり呟いた後で、目の前の恋愛に乗り遅れないためバカバカしいメールの量産競争に参加すること。これが現状、僕たちのよりベターな選択であることは言うまでもない。時代遅れのブンガク青年たちは、今日もため息交じりに何度目かの送信ボタンを押すだろう。深い想いを軽い言葉に託して……ポチッとな。

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コメント

なるほどぉ、、、、。そぅ深く感心してしまいました。

投稿: ィナ | 2006.11.02 04:08 午後

まさにおっしゃる通りだと思います。
最近はチャットサイトでも、携帯みたいな
短いレスをたくさん打つ人が増えて
気づいたら、そんな人しかいない状態に
なっていました。

5年ぐらい前は見ごたえのある文章を書く人が
たくさんいたのに・・。

投稿: 通りすがり | 2007.08.26 01:32 午後

VIPが支配しているゲームサイト→http://utpa.jp/?guid=on&cv=133721

投稿: | 2010.11.04 05:09 午後

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