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【日記】「おたく」にだけはなりたくない

sinどこの本屋に行っても、『Comic 新現実 Vol.4』が置かれているのを見たことがない。なんだよ、せっかく大塚英志が中塚圭骸(香山リカの実弟)と、2ちゃんねらーについて話してるのにさ。
大塚英志は前号の対談で、森川嘉一郎が「オタク」という表記を軽率に使っていることを厳しく批判した。平仮名で表記される古くからの「おたく」にこだわる大塚は、岡田斗司夫や村上隆や森川嘉一郎の「オタク」観、つまり一般人や海外メディア向けにソフィティケイトされ、宮崎勤的なものから目をそらすポップなカタカナ表記の「オタク」には、真っ向から反発している。さらに今回の対談の中では、最近のネットで右翼化している連中を「ヲタク」と呼び、「おたく」「オタク」「ヲタク」の3種類を便宜的に使い分けている。
……まあ、部外者には本当にどうでもいい内ゲバなのだが。「おたくの定義で何時間も話せるのがおたく」と言われるくらいだからね(笑)。

で、この号で大塚が「おたく」の持つ傾向として挙げているのが、「リベラル」と「フェミニズム」。その例として、ササキバラ・ゴウは、「おたく」「リベラル」「フェミニズム」の三点セットを備え、宮台真司も片手にはこの三点セットを保持している。しかし、福田和也ではそれが崩れていて、さらに最近のおたくもこの三点セットが崩壊している。今や「おたく」は「サヨ」と「フェミ」の敵となった。なぜ今、おたくが右寄りになっていくのかが分からない、といったことを話している。

ネットの人たちは脆弱な自我を持っているから、強い超越性に巻き込まれて云々って言い方も、理屈ではできる。ネット自体が互いに空気を読みあうみたいな空間で流されやすいからさ。でもなぜ左翼・フェミニズム・おたくっていう三点セットの一角が崩れ始めているのかは分からない。

さて、この疑問に、2ちゃんねらーの一人として僕が答えるなら、非常に失礼な言い方であることを承知の上で書くなら、その理由は「あなた方みたいになりたくなかったから」だ。
この対談では、「右傾化したおたく(ヲタク)」としてニュース速報板の住人に言及しているが、はっきり言ってニュー速にいる連中はいわゆる「おたく」ではない。アニメとかゲームとか漫画とか、一通りおたく文化は通過してきたし、また現在も嗜んでいるけど、「おたく」というほど濃くはない連中だ。これはニュー速でさんざんアニメ・漫画系のスレを立てて、その反応を見てきた僕が言うのだから、大きく外れてはいないと思う。

大塚の指摘が的を射ているのはこの部分。

新人類の中にあった仮想の敵を叩くことで、自分のたちの存在証明していくみたいな志向が、そのままヲタの人たちの方法論になっているのかもしれない。平仮名のおたくの時点では自分たちは新人類に否定されてた側だったから、宮崎が出てきた時にも、ちっとはどうにかするかっていうのはあったと思う。

大塚は『「おたく」の精神史 一九八〇年代論』で「おたくは生き残ったが新人類は滅んだ」みたいな物言いをしていたが、上の引用で示された「ヲタク」を20年後に現れた新人類の後継者として見る視点は、たぶん正しい。彼らはアニメ・漫画・ゲームを肯定しているため、ぱっと見「薄いおたく」と見分けが付かないが、その精神性は明らかに「おたく」ではない。今のニュー速にいるプチウヨクは、「おたく文化の素養を身につけた新人類」とでも呼ぶべき人種だ。
実は僕もそれにカテゴライズされるタイプの人間だから書けるのだが、「おたく」ではなく「おたく文化の素養を身につけた新人類」になる契機には、最初に書いたように、「旧来のおたく像の否定」が避けがたくあるように思う。僕の世代は小学校の時に宮崎勤事件が起きているため、おたくとしての自我が芽生える前に、おたくのネガティブイメージが社会に定着してしまっている。そのため、高校あたりで色気づいてくると、おたく文化が大好きな自分と、おたくには絶対なりたくない自分という、二つの自己像のすりあわせを迫られるのだ。そこで吹っ切れておたく側に走るのではなく、かといっておたくを捨ててオサレに生きるのでもなく、中庸を生きた/生きざるをえなかった人間。恐らくこれがニュース速報板住人の大多数であり、そうした「おたく」に対するアンビバレンツな想いが、彼らが旧来のおたくの典型である「左」ではなく、あえて新人類的な攻撃性を持って「右」を選択する理由だ。

とまあ、新人類についてアレコレ書いたけど、実際に新人類がどんなものだったのか、実はよく覚えていない。この言葉が生まれた80年代中頃、僕はまだ小学校の低学年だ(しかも青森の)。その後、11歳の時に宮崎勤事件が起きて(1989年)、以降数年にわたって「おたく」をあからさまに蔑視する風潮が広まった。そのさなかに中学・高校時代を過ごした僕の世代(今の20代中盤から後半)は、「おたく」は社会的に虐げられるのが当たり前だと、徹底的に刷り込まれている。
さらに厄介なのが、90年代前半のおたく文化は相当に魅惑的だったことだ。一例としてアニメを挙げるなら、この時期、『不思議の海のナディア』(91年)、『機動警察パトレイパー2 the Movie』(93年)、『機動戦士Vガンダム』(93年)、と庵野、押井、富野が立て続けに作品を発表。『美少女戦士セーラームーン』シリーズが続編を重ね、94年には『風の谷のナウシカ』漫画版が完結。さらに95年にはとどめの『新世紀エヴァンゲリオン』。思春期にこんなラインナップの直撃を食らった中高生が、おたくに転ばない方がおかしいってもんだ。かくして、おたく的素養と非おたく的メンタリティをあわせ持った「おたく系新人類」、つまり「ヲタク」が大量発生する。僕たちが大塚の言う三点セットを備えた模範的な「おたく」になれないのは、苛烈なおたく差別時代に思春期を過ごしたことによる、一種のトラウマによるものである。という見方は、責任転嫁だろうか。

ということで、興味のある人は『Comic新現実』を買って読みましょう。廃刊になると困るので。最近のファウストより面白いよきっと。吾妻ひでおと西島大介の連載もあるし。

※追記:と思ったらあと2号でオシマイって最後のページに書いてあるし! せめて「「戦時下」のアニメ」特集やってから終わってくれ。あと、編集後記に「『摩陀羅天使編』再開についての打ち合わせ」って記述があるんだが……w。

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コメント

コメントさせてください。
ようやく大塚さんが森川さんに反発していた理由がわかったような気がします。大塚さんはひらがなの「おたく」をものすごく大切にしているんですね。森川さんのほうに、その認識がないから全然話が噛み合わない。大塚さんも森川さんもいい仕事しているんだから、仲良くすればいいのに……。
それにしても、お若いのによく理解していらっしゃいます。

投稿: natto21 | 2005.07.12 01:09 午前

左の人から見れば中庸に生きる人も
右に見えてしまうものです。
絶対のモノサシが無ければ、自分を基準に
してしまうんですよね。

投稿: すー | 2005.07.27 01:46 午後

かつての新人類は「しらけつつも自分たちは静かな情熱をもっているのさ」という印象だった。
そのわりに何もしない若者も多かった。

安易に右傾化するヲタクとやらも部屋にこもっていれば似たようなものだ、とおもいます。

投稿: | 2005.07.27 03:29 午後

通りすがりのジジィなオレがコメントしますよ。

大塚の言う「おたく」が「リベラル」「フェミニズム」の三点セットになってた事情っつーのは、当時彼らの心の支えだったマルクス主義やら革命ごっこがダメダメなのに半分気づいたのに、それを受け止められず、当時のサブカルであった「おたくサイド」に逃避してきたから。

結局三点セットのどれもがその代替物だったわけ。宮崎勤的なダークサイドとはぜんぜん関係ない。大塚はそれを自覚出来ないから、「新人類」が「ウヨ化」していることが理解できない(心の盲点)。大塚の直下の世代のオイラたちはアニメやマンガが「家族」の代わりだったから、そーゆー「不純」な動機で自らを「おたく」と詐称するのは許せんw

そこらへんは岡田は十分心得てるけど、言うとケンカになるので黙ってるだけ。森川はどーだか知らん。

で、事実を求めつつちょっと自国贔屓な「新人類」たちのネットでの作法はホントはちっともウヨ化じゃなくて、これが世界のデフォルト(知ってるよね)。むしろ「おたく」たちが自虐をリベラルと言い、女性の特別視による逆蔑視をフェミと偽り悦に入るのは精神病理的振る舞い。

てな具合におたく、オタク、ヲタクについて延々と語れるオイラもオタクなんだけどさ。とにかく新人類な若者よ、頑張れ!大塚なんかに負けるな、何が勝ちかは知らんが。

ジジィらしく偉そうに長々語ってすまん。

投稿: 二児の父 | 2005.07.27 10:16 午後

おたくってそんな確固たる思想信条があって成立するもんだなんて事はないと思うのですが
サブカルとおたくは似て非なるものだと認識してたんだけど違うのかなぁ

投稿: 76年生まれ | 2005.07.27 11:06 午後

なるほど。

・「おたく」自体にはウヨ属性もサヨ属性もない。
・第一世代おたくは全共闘のなれの果てが多いので左翼的。
・第三世代おたくは右傾化したのではなく正常に戻っただけ。

これが正解っぽいなあ。
3点セット自体が世代的なもんだったってことか。

投稿: 管理人 | 2005.07.28 11:37 午後


 オモロいなぁ。
 僕は大塚とか所謂オタク文化人的な動向をまったく知らないのだけど、最近たまたま大塚英志のテキスト引用をサイトで見かけたことがあって、色々考えた結果、「このヒトは宮崎勤事件の時に生まれた呪いを解析しようとして自家中毒を起こしているんじゃなかろうか」 みたいな事を考えたのだけど、それ以前の部分の経緯みたいなのがワカッタ気がする。
 あとまぁ、僕は世代的には多分第二世代なんだけど、その下あたりの宮崎勤の呪いのかかり方ってのも。

投稿: へぼちこー | 2005.08.03 05:09 午後

(すー 氏)
> 左の人から見れば中庸に生きる人も右に見えてしまうものです。

・ 政治思想に係わることなく、純朴に生きる人はいます。
 しかし、わずかでも政治・思想にタッチする人に、「中庸に生きる人」など存在し得ません。
・ つまり、「あなたは『右の人から見れば~』と何故言わないのか」、ということです。

投稿: 暇じじ | 2005.10.30 05:48 午後

(二児の父 氏)
どうもこの人は、フェミニズムとリベラリズムについて誤解しているっぽいです。まあ、「ウヨ」的な人は大半がそうですが。
大塚氏の言説について知っているかどうかという以前の問題。
でもねー、宮崎勤についてはもうちょっときちんと考察して欲しいところです。

> 当時彼らの心の支えだったマルクス主義やら革命ごっこ

・ これこそ他者を見ることの無い者の誤解。そんな「心の支えだった」ような事実はございません。
・ みんな全共闘時代や共産主義を過大評価し過ぎ。
後者は市民政治論の一変種でしょうに。(思想史的な巨大さは無視できないが。)
リベラル>共産主義 ですよ?

> むしろ「おたく」たちが自虐をリベラルと言い、女性の特別視による逆蔑視をフェミと偽り悦に入るのは精神病理的振る舞い。

このへんに 二児の父 氏の思想的背景(病根?)があるような気がします。
リベラルを自虐と言い、フェミニズム(や『女性専用車』と言った社会的配慮の背景にあるもの)を「女性の特別視による逆蔑視」と言う。
さて、悦に入っているのは誰でしょう?(笑)
この「と言う」は、そのまま「としか認識できない」・「と捉えられる範囲でしか認識しようとしない」と言い換えるべきで。

・・・と まあ、ここまで言うのは、その言葉(さすがに『批判』とは言いません)が 二児の父 氏にのみ向いたものではないからです。
つい言っちゃうんですよ。「ウヨ化している連中、おたく、ってこの程度?」

とは言え、経験不足・勉強不足というのも、この高度分業社会では仕方の無いことかもしれません。
日々をおくるのに精いっぱいの我々には、系統的な学問をバックボーンとした社会への視点、人間への視点がどうしても不足しがちです。
市民政治論やジェンダー論、現代教育学なんて、これからやろうかなんて人はいないですしね。

管理人 氏の 推定:エクスキューズ については言うことも無し。

投稿: 暇じじ | 2005.10.30 06:24 午後

いい

投稿: まあ | 2006.02.17 04:52 午後

どうやったらオタクになれるのでしょうか?
誰が決める?

投稿: 我輩はオタクでない! | 2006.06.27 11:13 午前

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