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【日記】タイガー&ドラゴン

今期は珍しくドラマをいくつか見ているのだが、先週で最終回を迎えた『タイガー&ドラゴン』が面白かった。僕はクドカンのドラマは『木更津キャッツアイ』が大好きで、『マンハッタンラブストーリー』はいまひとつだったんだけど、『タイガー&ドラゴン』はこの2作品をうまく折衷して作られていると思う。

『タイガー&ドラゴン』は『木更津キャッツアイ』に対してクドカン自らが用意した一つの回答である。『木更津キャッツアイ』の主人公ぶっさんはガンで余命半年の命。その間を有意義に生きようと仲間たちといろいろやってみるが、結局何一つものにならない。この作品でのぶっさん(岡田准一)やアニ(塚本高史)は、『タイガー&ドラゴン』で竜二(岡田准一)、銀次郎(塚本高史)として再登場し、ドラマの中で同じ役回りを演じている。竜二も銀次郎もいずれ終わると分かっているモラトリアムに固執し、次のステップに進むことを拒絶している。次のステップとは、親の跡目を継ぐこと。つまり「大人になること」だ。
しかし、『木更津キャッツアイ』のいかにも楽しげなモラトリアムと違って、『タイガー&ドラゴン』の二人は焦燥の日々を送っている。いや、むしろそれは木更津で展開された若年性万能感丸出しの「自分探し」の帰結であると言うべきか。「こんなはずじゃなかった」という現実への失望感、それは20代も半ばを過ぎれば誰もが味わうありがちな感情ではあるのだが。
『木更津キャッツアイ』で見えていたモラトリアムの終わりは「死」という漠然としたカタチであったのが、『タイガー&ドラゴン』では「親の跡目を継ぐ」という具体的な選択肢として目前に迫っている。それが竜二と銀次郎を追いつめるのは、黙っていても向こうからやってくるのではなく、自らの意志による決断を迫られるものだからだ。モラトリアムにケリををつける覚悟、これが竜二と銀次郎に突きつけられた、「成熟」するための条件である。

さらに、『マンハッタンラブストーリー』の最後、ちゃぶ台ひっくり返し的に提示された「入れ替え可能な恋愛関係」は、『タイガー&ドラゴン』で形を変え「入れ替え可能な親子関係」として再現されている。これが「恋愛関係」から「親子関係」へとシフトしたことで、この作品は前作のノーテンキな雰囲気から一転、泣かせるドラマとなったわけだが、注目すべきは前作では喜劇でしかなかった「入れ替え可能性」が、今作ではある種の「希望」として現れていることだ。
『マンハッタンラブストーリー』の「入れ替え可能な恋愛関係」が、恋愛ドラマに冷や水ぶっかけるアイロニカルなオチであるなら、『タイガー&ドラゴン』のそれは、ヤクザや噺家といった特殊な共同体の、「入れ替え可能な親子関係」によって、孤児である虎児が助けられる美談である。虎児の人物造形は決して身近なものではないが、モラトリアムに溺れる竜二と銀次郎(こっちは身近ですね)の逆説として、ベタでありながらも泣かせる感動路線を担保している。

最終回、仕事を求めて事務所を訪れた虎児に対して銀次郎は言う。

「似合わねえことやってんじゃねえよ!」

この作品は、自分には何が似合うのか、つまり「自分探しが」テーマである。そして、ドラマの中で竜二や銀次郎の服のセンスがあからさまにおかしいのは、彼らが「似合わないこと」をやっていることを端的に表している。例えば最終回の銀次郎は、「似合わないことやってると自分でも思いますよ」と言っているが、組長スタイルの方が格好いいのは誰も目にも明らかだ。つまり、「自分では似合わないと思いこんでいるものが、他人から見ると実は一番似合っているかもしれない」という、ひとつの可能性がここで示されている。
だが、これだけでは片手落ちである。なぜなら竜二と銀次郎は、自覚がないとはいえ最終的に「似合い」のポジションに落ち着いたが、反対に虎児は誰がどう見ても「似合わない」噺家を選んでハッピーエンドを迎えるからだ。つまり、「似合うこと」だけが正解じゃない。『タイガー&ドラゴン』は、竜二と銀次郎が「大人になること」を選ぶまでの物語であると同時に、虎児が「子どもでいられる」場所を手に入れる物語でもある。「似合わないこと」をあきらめる「成熟」がある一方、あえて「似合わないこと」を選んで得られる「救い」もあるということだ。

まあ、彼らは「やるべきこと」「やりたいこと」がはっきりと見えていた分、幸せだったとも言える。竜二は元は天才噺家だったし、虎児も噺家を目指すことに躊躇はない。これは持たざる人間から見るととても羨ましいことだよね。だから僕がシンパシーを覚えるのはやっぱり『木更津キャッツアイ』の方なのだ。時間は今しかないのに、やりたいことは悲しいくらい何もない。この空虚なモラトリアム人間のそれでも見せるカラ元気は、NEET的な人々が生きていくために必要な強靱さであると僕は思う。

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» 【TV】「タイガー&ドラゴン」が終わって [inatt blog]
     最近、クレイジーケンバンドの「タイガー&ドラゴン」を毎日聴いている。  あのイントロが流れると、頭の中にあるシーンが思い浮かぶ。 それは虎児や竜二がいるシーンではない。 獄中で「君とはもうやっとれませんわっ」と叫ぶまるお(古田新太)である。 この..... [続きを読む]

受信: 2005.07.05 09:46 午前

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