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【日記】「名無し」に囁く門番の声

ネットの世界をコントロールする力には4種類ある、と定義したのはアメリカの法学者レッシグだが、いまの2chのニュース系掲示板は、この4つの力「市場」「規範」「法」「アーキテクチャ」をベースにして統制されているように見える。

・「Beポイント」という仮想通貨を導入した「ニュース速報」(市場)
・自然発生した価値観「VIPクォリティ」を掲げる「ニュー速VIP」(規範)
・ローカルルールによる統制を敷く「VIP天国(仮)」(法)
・住人全員が匿名を強要される「ニー速」(アーキテクチャ)

※「ニュース速報」における「Beポイント」の利用は強制ではないが、実質的にBeにログインしないとスレを立てられない状態にある。また、ローカルルールは「VIP天国(仮)」(法)だけでなく「ニュース速報」にもあるが、ほとんど無視されているのが現状。

もちろん「Beポイント」や「ローカルルール」は、現実の「市場」や「法」とは違う。だが、良スレを立てればポイントが溜まり便宜が得られる、初めから守るべきルールが制定されているといった世界観の設定は、現実の「市場」や「法」の特性をデフォルメして掲示板のコントロールに使っている、と考えることは可能だ。こうした体制が生まれたのはただの偶然だが、ニュース速報板と3つ分家は、ネットに働く「4つの力」が匿名空間にどのような影響を与えるのか、そのモデルケースとして捉えることができるだろう。
これらの4つの力のうち、もっとも強制力の強いのは「アーキテクチャ」である。次いで「市場」、「法」、「規範」の順。特に「法」と「規範」には誰にでも「犯す自由」があるが、「アーキテクチャ」と「市場」は、ハッカーでもない限り反抗は不可能だ。

「法」や「規範」によるコントロールは「規律訓練型権力」と呼ばれる。読んで字のごとく、人間に「規律」を守るよう「訓練」することで「管理」する権力。我々は子供の頃からルールや常識を守るよう、家や学校で徹底的に叩き込まれ、その結果、誰に見られていなくてもルールを守るようになる。このような内面からの抑圧で機能する社会管理のシステムが「規律訓練型権力」である。
一方、「アーキテクチャ」によるコントロールは「環境管理型権力」と呼ばれ、訓練ではなくシステムの枠組みによって人間を管理する。有名なのが、わざと椅子を堅くすることで、客に居心地の悪さを感じさせ、客の回転を速くするというマクドナルドの例。周囲を取り巻く「環境(アーキテクチャ)」によって発生する権力の形だ。

んで、東浩紀によれば、いまの社会はユビキタス化やら何やらで環境管理型権力に向かっているという。モラルや常識といった「大きな物語」が崩壊し島宇宙化が進む現代では、規律訓練型権力が機能しにくくなってきている。そんな、「動物化」した人々を管理するにはアーキテクチャによる支配が有効だ。もちろん2chも例外ではなかろうから、これからは「規律訓練型」のVIPや天国より、「環境管理型」のニー速の時代になるだろう。ニー速が誕生した時点で僕はこのように予想していた。
具体的には、「VIPクォリティ」という「規範」が喪失し、馴れ合いたい人、糞スレを立てたい人、趣味の話をしたい人、いろんな人間が入り乱れた結果、VIP板は非常にコミュニケーション効率の悪い世界になった。だから、ニー速のように固定ハンドルをアーキテクチャで禁止し、ある領域では「馴れ合い」を根本からできなくする、こういう管理でしか面白さを維持できない。そう考えたのだ。
しかし実態は違った。アーキテクチャによる管理に息苦しさを覚えた人々はニー速から逃げだし、やがてニー速は好事家だけが集まる過疎板となってしまった。このニー速の失敗は、僕たちは厳密な形での環境管理型権力には耐えられない、という現実を示してはいまいか。

実はニュー速VIPは、厳密な意味での規律訓練型の社会ではない。むしろ、環境管理型社会と規律訓練型社会のちょうど境目に位置していると考えるのが適切だ。この状態を、東浩紀と大澤真幸の対談『自由を考える』では、カフカの「掟の門」のエピソードを引用して解説している。

田舎から来た男が門の前にたどり着く。門は開かれているが、門番は通ってはならないと言う。そのため男は、門が開いているにもかかわらず、通ることはできない。結局、男は最後まで門を通ることができない。男は死の直前に「他にここ通る者がいないのはなぜか」と門番に聞く。門番は、「この門はお前のためだけに作られたものだから」と答える。

ここで旅人を押しとどめているのは何か。門が閉まっていて進めないのであれば環境管理型権力だが、門は開いている。門番の制止を受け入れたため通れないと解釈すれば規律訓練型権力だが、この男に内面からの抑圧は働いていない。
大澤真幸はこの状況を、環境管理型権力と規律訓練型権力を繋ぐ蝶番であるとしたが、このエピソードははそのまま2chに当てはめて考えることもできる。つまり、門が開いている(名前を入力できる)が、門番は通るなと言う(コテハンは叩かれる)。これがVIPをはじめとする2chの多くの板の状態である。門が閉じていれば人はいなくなるし(ニー速)、門が開いていて門番がいなければ、これまた人は減る(ラウンジ)。

「コテハンになれるけど、(あえて)ならない」という選択が生み出す、ゆるやかな規範。「アーキテクチャ」によって選択肢がもたらされ、その判断は「規範」によって左右されるという二段構えの構図。このように、アーキテクチャによる支配は、マクドナルドの例のように何かを不自由にするのではなく、選択肢という形で現れる。それを選ぶことで我々は規範を共有し、時にはそれを「VIPクォリティ」などと呼んだりする。つまりここで起きているのは、環境管理型権力が規律訓練型権力をデザインするという事態である。
多分僕たちは、東浩紀が提唱した「動物」そのままに生きる、すなわち環境管理型権力に最適化されることは、当分ないだろう。『動物化するポストモダン』が指し示した状況というのは、一部の先鋭的なヲタだけに見られる極論でしかなく、大多数の人間は「データベース消費」に馴染むことはあるまい。むしろ、アーキテクチャはそんな一部の動物たちを管理する檻としてではなく、「大きな物語」を局地的に捏造するシステムとして機能する。

「ポスト近代」が多数の小さな「近代」を捏造する。これがニュー速VIP板が指し示している「未来」の姿である。

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コメント

頭イタスwwwwwwwwwwwwwwwwwww

分かるよーな分からんよーなwwwwwwwww

投稿: 高二病 | 2005.08.02 01:13 午後

「コテハンになれるけど、(あえて)ならない」
 が規範になるなら、
「名無しになれるけど、(あえて)ならない」
 というのも規範にはなるでしょうよ。

 少なくとも俺にとっての規範はそういうもん。
 んで、2000年頃の2ch、匿名掲示板の感覚で言えば、自分の存在を隠すことが規範として機能する、という文脈は無かった、とまでいうのはアレだけど、そんなにスタンダードでも無かったと思うぜ。

投稿: へぼちこー | 2005.08.13 07:59 午後

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