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【漫画評】フルーツバスケット/高屋奈月

furu.jpg「恋愛は付き合うまでが楽しい」とはよく言われることで、主人公とヒロインのときめきラブストーリーが輝きを失わないためには、二人はくっつくことなく微妙な関係を維持しなければならない。いわゆる「ラブコメ」と言われる漫画の一部は、その恋愛不可能性をSF的な設定に盛り込むことで、永久にゴールにたどり着かない恋愛関係を保障してきた。ラムが宇宙人なのも、らんまが女に変身するのも、ひばり君が実は男の子なのも、R・田中一郎がロボットなのもそのためだ。すべて彼や彼女たちの恋愛の成就を妨げ、微妙な関係を永遠に維持するためのギミックである。(このギミックがないと『いちご100%』の真中のように猛烈な非難を読者から浴びることになる笑)
この手法の元祖は萩尾望都の『11人いる!』だろう。この作品のヒロインであるフロルは雌雄同体の宇宙人。成長過程で性差を選択できる種族のため、男か女かが決定されていない猶予期間にある。物語の中でフロルはタダというボーイフレンドを得て、女性へと変化することを決心するのだが、この二人の関係は実に魅力的だ。今はまだ男でも女でもないフロルはいずれ美貌の女性へと変化する、その約束された将来までの間、つまり子供でいる間にだけ許される、恋人でも友達でもない微妙な関係。「性差の未発達な宇宙人」という設定を使って、萩尾はそのいっときのゆめまぼろしのような感情を見事に具現化してみせたのだ。
この恋愛不可能性を設定に盛り込む手法はその後広く一般化する。最近の作品で例に挙げるなら、『美鳥の日々』が右手が女の子になるという大胆な設定を採用してるし、少年チャンピオンの『曲芸家族』では、主人公と二人のヒロインの顔がまったく同じという、避けがたい恋愛不可能性が読者に突きつけられている。
そして、この『フルーツバスケット』の登場人物もまた、干支の動物に変身するという恋愛不可能性を抱えている。これは高橋留美子の『らんま1/2』の変奏であるが、らんまではお湯をかぶること変身するのに対して『フルーツバスケット』では異性に抱きつかれると変身するという、より本質的な設定となっている。なにしろ作中で干支の呪いにかけられた者は、SEXができないことまで遠まわしに言及されているのだ。恐らく作者自身もこの設定の意味するところについては十分自覚しているだろう。(「透」という男の名前の少女と、「由希」という女の名前の少年は、二人の関係が普通の恋愛関係ではありえないことを暗示しているかのようだ)
さて、普通ならこういった設定であれば、動物に変身してしまう登場人物がトラブルメーカーとなって、ドタバタと学園コメディが展開される……はずなのだが、『フルーツバスケット』ではそうはならない。なぜなら、恋愛だけに作用するはずの不可能性が、この作品では親子関係にまで影響を及ぼしているからだ。干支の人間は例え相手が親であっても異性に抱かれると動物に変身してしまう。つまり「干支の呪い」は恋愛だけでなく、親子の愛情まで否定するのだ。これは従来の同種のラブコメが避けてきた問題であり、触れてはならないタブーだったはずだ。SFラブコメが潜在的に抱えるもう一つのグロテスクな側面、そこから紡ぎだされる暗い物語を読者は知ることになる。
先に挙げた恋愛不可能性の先駆者、萩尾望都も『イグアナの娘』で、娘がイグアナに見えるために愛せない母親という、親子間の愛情不可能性の物語を描いている。恋愛不可能性は親子の愛情不可能性と表裏一体であり、ヒロインとの終わりのない恋愛ごっこに興じる主人公は、同様に実の親からも愛されることはないのだ。萩尾の『11人いる!』から『イグアナの娘』への転換を、ラブコメ設定を使いながら「コメディ」ではなく「悲劇」を選び取ることで実践した作品、それが『フルーツバスケット』なのである。
これは少女漫画だからこそ描かれた作品だ。あのラブコメの世界で楽しそうに遊ぶ異形の子供たちが、自分の息子や娘だったら……甘く楽しげな世界を冷ややかに眺めながら働かせるこういった想像力は、いずれ母親になる人間しか持ち得ない。この手法の最大の成功者である高橋留美子も同様の問題に気付いていたはずだが、徹底して男性向けのエンターティーナーであるために、あえて無視していると見るべきだろう(高橋作品の中で最もシリアスな人魚シリーズでも、あくまで親子の愛情は歪むものであって否定されることはない)。
萩尾望都が生み、高橋留美子が育てたSFラブコメの最前衛は、形を変え男の子の妄想から再び少女漫画のもとに奪回された。この『フルーツバスケット』は、男の子たちが奔放に遊ぶラブコメ世界の裏にあるはずの、もう一つの「愛なき世界」なのである。

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コメント

夾くんのコト、神羅よりも愛してます!!!!!

投稿: 音♪♪♪ | 2005.01.08 08:23 午後

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